おはようございます。
先日、またまた面白い珈琲屋さんを見つけたのでちょっと紹介したい。
漫画「孤独のグルメ」や「ワカコ酒」ではないが、珈琲呑みをやっていると独特の嗅覚が発達してくるらしい。いや、そんな自慢げな話でもなんでもなく、「名探偵コナン」が行く先々で殺人事件に遭遇してしまうように、それは唐突に、そしてどうしようもなくやってくる。
「あれれ~、あのオジサン、なんか変じゃない?」
とコナン君が気づいてしまうように、ある路地が妙に気になる。気になって気になって仕方がない。いやいやそんな馬鹿な……と一度通り過ぎようとして、立ち止まり、フィルムを巻き戻しするように後ろに二歩、三歩と戻ってきてしまう。
藤沢駅北口、ビックカメラの裏にもそんな路地があった。
「喫茶ジュリアン」「ドーリー」「占」「本場札幌 ラーメン餃子 こぐま」……。
古臭くひっそりとした感じがするが、少しも死んでない。むしろ逆。
この店たちでは当たり前に人々の生活が営まれ、生き生きしている。高度な技術で小奇麗な生活を送っている自分のほうが、まるでちぐはぐなのではないかというざわつき。
……この通りは、一体いつの時代で、どこの地方だ……!? 一瞬にして記憶喪失っ……! 彷徨う異邦人っ…!
そしてとうとう僕を物云えぬ彫刻にしたお店がこちら。
「自家焙煎 もるげん珈琲」
昔ながらの喫茶店という感じだが、近づいて見てみると、何かとにぎやかなお店だ。まず自家焙煎というのが興味を惹くが、店主が描いたと思われるピカチュウ(?)のイラストや、3Dラテアートもやっていますの文字が、どうも余裕綽々、エネルギッシュである。
そして驚くべきは、JBA認定バリスタがいるらしい。
何……?
これが決め手となり、即入店。
店内はウッディで落ち着きのある佇まい。席数も意外と多く、カウンター席、テーブル席に加え、まさかの座敷席がある。居抜きで出店してレストランを徐々に喫茶店に改修しているような感じだが、はじめからこの形だったかのようにも思える。先客は……小さな子供連れのご婦人と、奥の席で煙草をくゆらすオヤジ。あまり見ない取り合わせだ。
自家焙煎珈琲にこだわりながらも、フードメニューを充実させ、スイーツや酒もあり、ピカチュウだの孫悟空だのといった魑魅魍魎がところどころに顔を出す、カオスに満ちた空間。
だが、落ち着く。
このときはランチタイムだったので、僕はカレーを頂くことにした。
しっかり炒められたたまねぎと、ひき肉が特徴的な黄色いカレーだ。ローリエの香りが強く、家庭的なような、そうでもないような……。これぞ喫茶店のカレーである。もちろんうまいが、うまいとかまずいとか以前に、いい。
量も僕には多すぎず少なすぎず、ちょうどいい。あまり多いと、食後の珈琲がしっかり味わえない。
余談になるが、ときどき「喫茶店の食事は量が少なくて不満だ」などと云う輩がいるが、それはとんでもなく的外れな話だと僕は思う。寿司屋に行って、やれ肉がないとか野菜が少ないと騒ぐやつがあるだろうか? 喫茶店は味と時間を愉しむ場所なのであって、ドカ食いをする場所ではない。ドカ食い「も」できるという店があれば、それは加点すべき特長であり、それをスタンダードに持ってくるべきではないのだ。
なお、こちらのお店では大盛もできるようだ。
さて、食後には当然、珈琲を頂く。
通常のメニューを出してもらうか迷ったが、ランチとセットのコーヒーにした。といっても、これも、どうしてなかなか、こだわりの一杯。ドリップコーヒーではなく、あえてのアメリカーノである。
アメリカーノとは、エスプレッソをお湯で割ったコーヒーである。
「わざわざ濃厚なエスプレッソを抽出して、それをお湯で割るなんて、あまり感心しないね……」
実は僕も最近までそう思っていた。
またまた余談になるが、アメリカーノについて書いておきたい。
旅行記などを読んでいると、イタリアでアメリカーノを頼むなんてそうそうあり得ない話みたいで、これもどう表現したらいいんだろう、蕎麦屋で丼ものだけ注文するような感じだろうか。とにかく、「せっかくのエスプレッソバールでそれかよ」みたいな、とにかくかなりチャレンジ精神が必要な話ではある。
その上、アメリカーノの悲劇といえば
「たっぷり飲みたいなら、ドリップコーヒーにすれば? そのほうがおいしいよ」
という、ドリップ派からも迫害を受けていることだ。
エスプレッソにもなりきれず、ドリップコーヒーにもなりきれない……。妖怪にも人間にもなりきれない哀れな存在、半妖「犬夜叉」のようなこの飲み物。
ところがそんなアメリカーノにも美点があり、そのひとつは「熱さ」であろう。ドリップコーヒーは時間をかけて抽出するため、抽出中に温度が下がる。再加熱なぞしようものなら、せっかくの味と香りが吹き飛んでしまう。そんなドリップコーヒーの課題を、アメリカーノはさらりと解決してのけるのだ。
冬の朝、冷えて空っぽの身体に、
あるいは、灼熱の昼下がり、喝を入れたい心に、
アッツアツのコーヒーをぐぐーっとたっぷり一杯注ぎ込んだら、どれだけ気持ちいいだろうか。
そしてそれは、じんわり辛いカレーを食べた後しかり。
ブラジルだろうか、まろやかで少し後を引く苦みが、カレーでヒリリとする下に、じゅわ~っとしみ込んでくる。
んあ゛~。うまい……。
ごちそうさまでした。
我に返った僕が店内を見渡していると、また気になるものが目に飛び込んできてぎょっとした。
パ、パクチーノ!?
カプチーノに、パクチーを。
こちらは、まるで聞いたことのない飲み物だ。
もうね、ヤバすぎです。
こんな強え奴がいるなんて、おらワクワクしてきたぞ!
つづく