チャオ。
突然ですが、「カフェ・ソスペーゾ」という言葉をご存知ですか。
これはナポリのイタリアンバールの風習で、懐の温かい人が、2杯分のカッフェ(エスプレッソ)の代金を支払い、その後やって来た人がタダでカッフェにありつけるというもの。見知らぬ誰かをさらりと幸せにする小粋な文化である。
およそ10世紀から続くと云われている珈琲の歴史の中でエスプレッソマシンが登場したのは19世紀なので、イタリアンバルやエスプレッソの歴史はまだまだ浅い。とはいうものの、イタリア人にとって今やカッフェは生活に欠かせない存在。そして僕にとっても珈琲はかけがえのない人生の一部だ。そんな日常の中に、人とのつながりがあり、しかしそれは決して押しつけがましさや気まずさはない、なんてことになれば、なんて素晴らしいことだろう。
(ああ、もしかしたら僕の前世はイタリア人だったのかもしれないな……でもロンドンパブに行ったら行ったで、前世はイギリス人だった気もする、そんないい加減な僕は、やはり日本人だ)
さておき、最近この言葉を立て続けに耳(目)にすることがあった。NHKで放送中の「旅するイタリア語 第2課 ~ナポリの下町を散策~」と、むろなが供未・花形怜著「バリスタ」((4)episode.34 カッフェの恩恵)である。面白い情報というものは、興味を持ち続けているとおのずと飛び込んでくるものだ。
というわけで、さらにカフェ・ソスペーゾについていろいろと調べてみたりしていたところ、なんと、そんな名前のカフェが日本にあることを知った。
~caffe sospeso~
これがなかなかどうして、本格的なイタリアンバールのようだ。
場所は新橋…から少し歩いたところ。新橋といえばサラリーマンの街で、今もその認識に誤りはないが、チェーン店や安居酒屋のひしめく駅前を抜けて少し歩けば虎ノ門ヒルズや汐留イタリア街などといったこじゃれた世界が広がっている。カフェ・ソスペーゾは第一京浜道路を南下し、まさにイタリア街の入り口あたりにある。
闇に浮かび上がる看板のイラスト(ポルターホルダーとデミタス)からはいかにもいい香りがしてきそうだ。ああ、念願のカフェ・ソスペーゾである。実はこの記事を書く前に泣く泣くこの看板の前を通り過ぎたことがある。というのも、こちらのお店は土日祝と14:30~17:30の時間帯がお休みなので、注意が必要なのだ。新橋のサラリーマンでない僕は有給休暇を使って本気も本気でカッフェを呑みにやって来たのだった。この時”だけ”は新橋のサラリーマンが羨ましい。ワインや食事も充実していて、仕事帰りにスーツでアペリティーヴォなんか洒落込めたらそれはもう最高だろうなと。ちょうど僕と同じタイミングで入店した女性がいたが、ワインを傾けながら待ち合わせのようだった。クールですな……。
こちらが念願のカッフェ。
最近は浅炒り豆を使用したオセアニアンスタイルが流行っているが、ここでは昔ながらのイタリアンエスプレッソ。ツンとした感じの無い、まろやかな口当たりだ。日本では珍しいレバー式のマシンで淹れてくれて、価格も本場らしく200円。砂糖を入れても美味しいと思われるが、砂糖が無くてもいけちゃう。僕はお供にホワイトヌガー(180円)頂いた。素晴らしいの一言だ。くー、この一瞬の為に生きてるわ。
だが、当然もっと呑みたい。
続いてカフェ・コレットを頂いた。リキュールにはグラッパか、グランマルニエを選ぶことができるとのことだが、今回はグラッパにした。
「ちょっと入れ過ぎじゃないか!?」
と思うほど、なみなみと注いでくれて、一気にほろ酔いである。
日本に輸入されるグラッパは年々品質があがり、もはやマールといっても差支えない気品のある香りだ。エスプレッソの力強い香りと混ざって、極上のひととき……だが、かなり安い。エスプレッソファンでなくとも、これを呑みまくりに来てもいいんじゃないかと僕は思いますが、いかがでしょうか。ちなみに、飲み終えてから写真を撮らなかったことに気づいた。
もう止まらない。
三杯目はカップチーノ。見事なラテアート。カップのふちの丸みと、やさしい味わいが一人騒ぎ出したい気分を落ち着けてくれる。口の中で変化していくラッテの甘みを感じながら、ゆっくりと店内を見渡すと、壁に掛かれた文字やイラストがね、もうね、なんかいいな……とね。バリスタの似顔絵がよく似ている。いろんな人に愛されているお店なのだろう。
ごちそうさまでした。
次の有給休暇も、イタリアに行こう。