在りそうで無い、真っ白な時間と空間 ~ヒマダコーヒー~

 

先日、念願の自転車を買って、葉山の海辺をでサイクリングをしてきた。

葉山の海辺。

言葉にするだけで、ちょっとうれしい。さわやかな風のクオリアが躰を通り抜けていくようだ……。

三浦半島西部に位置するこの街は、日本におけるヨットレースの発祥の地である葉山マリーナや、ダイヤモンド富士を望む長者ヶ埼といったレジャースポット、そして老舗のカフェ、レストランやホテルを抱く魅力的な場所だ。

そんな葉山に魅了される人は多く、著名人の住宅が別荘も多いとか。余談だが僕の好きなZARDの坂井泉水もPVやジャケット写真の撮影で訪れている。

そんなわけで常々行ってみたかったのだが、町内に鉄道路線は無いため、ペーパードライバーの僕にはそういう意味でもちょっと敷居の高い町であった。(もっとも、バスはあるので、行けないこともなかったのだが……)

逗子駅からゆったり出発し、田越川に沿ってミニベロを走らせていくと、建物の間からちらちらと海が見えるようになる。つい立ち止まって写真に収めたくなるような場所ばかりだ。セレブなイメージと裏腹に、長者ヶ埼に至る道は庶民的で、どことなくゆったりとした古い町並みが続く。

走ったり止まったりを繰り返しながら、目当てのお店にやってきた。

「ヒマダコーヒー」

このお店は、僕が以前勤めた会社の、先輩の、同期の、友達の、奥さんの、弟の……? 方が開かれたらしいのだが、実のところ僕とヒマダコーヒーの間には縁もゆかりも全くない。なかったのだが、その面白い名前が耳に残っていた。そんなゆるい風の噂をたどってやってきてみれば、これがなかなか素敵な雰囲気で、コンセプトも、のんびり屋の僕には魅力的だった。

ヒマダ……。

「ヒマ」という空白の時間を、静かにゆったり、大切に味わう。うーん、いいです。

白を基調とした店内、鉄の細いフレームのテーブルや、木の椅子、ささやかなオブジェが、なんとも居心地が良い。

着席すると、物静かな店主さんが差し出してくれたのは、キンキンのお冷……ではなくお湯。なんだか新鮮である。水の、味がする。ほっとする。

この日はランチタイムに訪れたので、「ナポリタン」と、「いつものコーヒー」(という名前)をいただくことにした。

麺、ケチャップも手作りしているというナポリタンは、こだわりの逸品。ナポリタンとしては珍しいフェットチーネで、薄くスライスされたピーマンが鮮やかな緑を添えている。まったりとしたトマトの味に、オレガノの香りが利いていておいしい。田舎蕎麦のような独特の香りと食感を併せ持つ麺とよくマッチしている。

一口一口、しっかりしっとり味わった後は、おまちかねのコーヒーのお時間……の前に、店主さんからすっと一枚のメモが差し出された。

「余計なことかもしれませんが…

ただ今、手打ちパスタの内容一部を

デュラムセモリナ粉から、

小麦の原種と云われる

スペルト小麦の全粒粉に置き換えて

お作りしております.」

とのこと。

な、なるほど~。だから独特の風味だったのか。教えてくださってありがとうございます。

……静かな時間を大切にするお店だが、入り口の注意書きといい、コンセプトのご説明といい、根はちょっとおしゃべりで、いろいろ伝えたいお店でもあるようだ。

以前こちらのブログでも書かせていただいたが、どことかく「Fuzkue」を彷彿とさせる。でも「Fuzkue」が読書をひとつのテーマにしていることに対し、ここには本は一冊もない。一人で何も持たずに来れば、本物の「ヒマ」が味わえる。これはこれで、なんと贅沢なことだろうか。

ゆったりヒマしていると、「いつものコーヒー」が出てきた。

真っ白でつやつやのコーヒーカップに、ネルドリップで抽出される濃い目のコーヒー。あー、おいしい。これぞ原点ですね。サードウェーブコーヒーの流れに乗ってフルーティーな特性を前面に押し出したあっさりとしたコーヒーが流行り始めて久しいが、ときどき飲みたくなる、腕がないと出せないデミタス。いいなぁ。

全体的に、古き良き日本の喫茶店……から、余計なものを引き算し続けて、現代風に研ぎ澄ましていったような感じ。

「海辺のカフェ」というと、アメリカンミッドセンチュリーハデハデなロードサイドレストランとか、サーファーやバイク乗りがクールに立ち寄るイケイケコーヒースタンドとか、はたまたシャンパングラスをかかげちゃうムーディーなお店をぽんぽんとイメージするけど、そうじゃない。葉山だろうがモナコだろうが、いいんだよ、これで。日本人のカフェかくありき。

在りそうで無い、無さそうで、此処に在る。

空白の時間。

さーて、”ついでに”海でも眺めて帰るか~。なんて、魅力あふれる葉山の町が、なんとなく日常になってしまう魔法だ。

ヒマを愛する人は、わざわざ行ってみたらいい。

すげぇヤツは路地に居る ~もるげん珈琲~

おはようございます。

先日、またまた面白い珈琲屋さんを見つけたのでちょっと紹介したい。

漫画「孤独のグルメ」や「ワカコ酒」ではないが、珈琲呑みをやっていると独特の嗅覚が発達してくるらしい。いや、そんな自慢げな話でもなんでもなく、「名探偵コナン」が行く先々で殺人事件に遭遇してしまうように、それは唐突に、そしてどうしようもなくやってくる。

「あれれ~、あのオジサン、なんか変じゃない?」

とコナン君が気づいてしまうように、ある路地が妙に気になる。気になって気になって仕方がない。いやいやそんな馬鹿な……と一度通り過ぎようとして、立ち止まり、フィルムを巻き戻しするように後ろに二歩、三歩と戻ってきてしまう。

藤沢駅北口、ビックカメラの裏にもそんな路地があった。

「喫茶ジュリアン」「ドーリー」「占」「本場札幌 ラーメン餃子 こぐま」……。

古臭くひっそりとした感じがするが、少しも死んでない。むしろ逆。

この店たちでは当たり前に人々の生活が営まれ、生き生きしている。高度な技術で小奇麗な生活を送っている自分のほうが、まるでちぐはぐなのではないかというざわつき。

……この通りは、一体いつの時代で、どこの地方だ……!? 一瞬にして記憶喪失っ……! 彷徨う異邦人っ…!

そしてとうとう僕を物云えぬ彫刻にしたお店がこちら。

「自家焙煎 もるげん珈琲」

昔ながらの喫茶店という感じだが、近づいて見てみると、何かとにぎやかなお店だ。まず自家焙煎というのが興味を惹くが、店主が描いたと思われるピカチュウ(?)のイラストや、3Dラテアートもやっていますの文字が、どうも余裕綽々、エネルギッシュである。

そして驚くべきは、JBA認定バリスタがいるらしい。

何……?

これが決め手となり、即入店。

店内はウッディで落ち着きのある佇まい。席数も意外と多く、カウンター席、テーブル席に加え、まさかの座敷席がある。居抜きで出店してレストランを徐々に喫茶店に改修しているような感じだが、はじめからこの形だったかのようにも思える。先客は……小さな子供連れのご婦人と、奥の席で煙草をくゆらすオヤジ。あまり見ない取り合わせだ。

自家焙煎珈琲にこだわりながらも、フードメニューを充実させ、スイーツや酒もあり、ピカチュウだの孫悟空だのといった魑魅魍魎がところどころに顔を出す、カオスに満ちた空間。

だが、落ち着く。

このときはランチタイムだったので、僕はカレーを頂くことにした。

しっかり炒められたたまねぎと、ひき肉が特徴的な黄色いカレーだ。ローリエの香りが強く、家庭的なような、そうでもないような……。これぞ喫茶店のカレーである。もちろんうまいが、うまいとかまずいとか以前に、いい。

 量も僕には多すぎず少なすぎず、ちょうどいい。あまり多いと、食後の珈琲がしっかり味わえない。

 余談になるが、ときどき「喫茶店の食事は量が少なくて不満だ」などと云う輩がいるが、それはとんでもなく的外れな話だと僕は思う。寿司屋に行って、やれ肉がないとか野菜が少ないと騒ぐやつがあるだろうか? 喫茶店は味と時間を愉しむ場所なのであって、ドカ食いをする場所ではない。ドカ食い「も」できるという店があれば、それは加点すべき特長であり、それをスタンダードに持ってくるべきではないのだ。

なお、こちらのお店では大盛もできるようだ。

 

さて、食後には当然、珈琲を頂く。

通常のメニューを出してもらうか迷ったが、ランチとセットのコーヒーにした。といっても、これも、どうしてなかなか、こだわりの一杯。ドリップコーヒーではなく、あえてのアメリカーノである。

アメリカーノとは、エスプレッソをお湯で割ったコーヒーである。

「わざわざ濃厚なエスプレッソを抽出して、それをお湯で割るなんて、あまり感心しないね……」

実は僕も最近までそう思っていた。

またまた余談になるが、アメリカーノについて書いておきたい。

旅行記などを読んでいると、イタリアでアメリカーノを頼むなんてそうそうあり得ない話みたいで、これもどう表現したらいいんだろう、蕎麦屋で丼ものだけ注文するような感じだろうか。とにかく、「せっかくのエスプレッソバールでそれかよ」みたいな、とにかくかなりチャレンジ精神が必要な話ではある。

その上、アメリカーノの悲劇といえば

「たっぷり飲みたいなら、ドリップコーヒーにすれば? そのほうがおいしいよ」

という、ドリップ派からも迫害を受けていることだ。

エスプレッソにもなりきれず、ドリップコーヒーにもなりきれない……。妖怪にも人間にもなりきれない哀れな存在、半妖「犬夜叉」のようなこの飲み物。

ところがそんなアメリカーノにも美点があり、そのひとつは「熱さ」であろう。ドリップコーヒーは時間をかけて抽出するため、抽出中に温度が下がる。再加熱なぞしようものなら、せっかくの味と香りが吹き飛んでしまう。そんなドリップコーヒーの課題を、アメリカーノはさらりと解決してのけるのだ。

冬の朝、冷えて空っぽの身体に、

あるいは、灼熱の昼下がり、喝を入れたい心に、

アッツアツのコーヒーをぐぐーっとたっぷり一杯注ぎ込んだら、どれだけ気持ちいいだろうか。

そしてそれは、じんわり辛いカレーを食べた後しかり。

ブラジルだろうか、まろやかで少し後を引く苦みが、カレーでヒリリとする下に、じゅわ~っとしみ込んでくる。

んあ゛~。うまい……。

ごちそうさまでした。

我に返った僕が店内を見渡していると、また気になるものが目に飛び込んできてぎょっとした。

パ、パクチーノ!?

カプチーノに、パクチーを。

こちらは、まるで聞いたことのない飲み物だ。

 

 

 

もうね、ヤバすぎです。

こんな強え奴がいるなんて、おらワクワクしてきたぞ!

つづく

マメに生きるぞ ~珈琲や 八王子工房~

 

2018年、あけましておめでとうございました。
去年もいろいろ、本当にいろいろありました。今年も激動の一年になりそうですが、宜しくお願い致します。

 

年末年始公私ともバタバタしており、やっと一人の時間を取り戻しかけた1/7のこと。絡まった気持ちをほぐすため、僕は東京都八王子市にやってきた。

目的は子安神社へのお参り。何はともあれ生き延びたことへの感謝の気持ちと、自分らしく生きていくことの祈願……。 初詣というにはちょっと遅すぎるけど、結構人が出ていた。世間も、やっぱりこのあたりから”自分の時間”を始めるのかもしれない。
そして、街を歩く。この日は温かい日差しがとても気持ちよかった。

 

八王子は、ご近所というわけではないが、縁あってときどきお邪魔する街。ここでの思い出も多くなってきた。
あくまで個人的な思いだが、昔、八王子という街に対しては、なんとなくギラギラした若者の街というイメージを持っていた。”王子”という言葉の響きによるものだろうか、ホストが君臨する魔境のような、そんなイメージ。
だが実際の八王子はというと、まあ確かに治安の悪そうな部分もありつつも、ジャンルも大きさも様々なお店が軒を連ねる面白い場所だ。良くも悪くも、人の集まる場所というのはエネルギーがある。子安神社もそうだが、相応の歴史があり、ちょっと下町らしい一面もある。時代が一周回って、ちょっと落ち着いた雰囲気も出てきたような……なんて僕が云うのもおこがましいが。

さて、JR八王子駅の北口から、どこからともなくお正月らしい音楽が流れるユーロードを歩いていくと、超強力な引力を感じた。

引力?
いや、香りだ。
いつも香りが先にやってくる。

そのお店は通り沿いの一等地にあったのだが、もしそれが路地裏にあったとしても、山の中にあったとしても、僕はいつでも見つけてしまうのだ。「White Album Ⅱ」というアニメでふたりのヒロインとの狭間で恋に苦悩する主人公が「俺はきっと見つけてしまう」と呟くのと同じくらい切なくてやりきれないほどに、そういうタチなのだ。
靴先に現れた「珈琲や」という小さな看板から目を挙げると、美しい店舗が目に入った。

~珈琲や 八王子工房~

「珈琲や、とな」
なるほど思い切った店名である。
だが、全く名前負けしていない。
ロースターのイラストがかわいいドアを開くと、店先には、世界約20ヵ国、約30種類の珈琲の”生豆”が並び、そして一層濃くなる香りが僕を出迎える。
「いらっしゃいませ」
嬉しさで立ち尽くす僕の前にスタッフの方が声をかけてくれた。
お話を伺うと、こちらのお店は「喫茶スペースのある珈琲豆屋」とのことで、つまり珈琲豆の販売がメイン。珈琲豆を購入すると、その場で焙煎してくれる。そして、出来上がりを待つ間にドリップコーヒーが一杯サービスされるとのこと。種類よるが、焙煎したての新鮮な珈琲豆200 gと一杯の珈琲を合わせて1000円くらいでなかなかお得感がある。デカフェート(カフェイン抜き)のものや、ロブスタ種など珍しい豆の取り扱いもあり、珈琲好きにはたまらないお店だ。
なお、カフェとしても優等生で、定番のケーキセットに加え、サンドイッチやキーマカレーといった食事メニューまで網羅され、大満足のラインナップである。

ちょうどお昼時だったので食事にしようかとも思ったが、なにはともあれ珈琲亜三昧したい気分が勝った。  今回は、ドリップコーヒーには、「ブラジル ブルボン アマレーロ」、珈琲豆は「ロブスタの木」というものを選択した。珈琲満載の空間も魅力的だが、日差しを浴びたかったのでテラスで頂くことにした。

ブルボンアマレーロは、苦みは少な目で、華やかながら落ち着いた味と香り。どことなく黒糖のような甘みと酸味が感じられる。お供にサービスされたナッツ類の中の素朴な酸味とよく合う。年末年始の飲み会や、お正月に頂く味の濃いおせちでお疲れだった胃と舌を浄化してくれる。ちなみに、アマレーロとは完熟した実の黄色を意味するそうで、どうりで滋味あふれる甘さだ。ごちそうさまでした。

お次はロブスタ。こちらはおうちでエスプレッソにしてみた。
苦い! くぅー、これこれ! ……けど、思ったよりあっさりしているな。おいし。

少々マニアックな話になるが、アカネ科コフィア属の植物であるコーヒーには、アラビカ種、ロブスタ種という二大品種があり、ざっくり云って、アラビカ種は病気に弱いが風味が豊かな高級品、ロブスタ種は病気に強いが独特の強い苦みがありストレートでの飲用はされにくいという特徴がある。

この記事を書いている現在では、アラビカ種とロブスタ種の生産比率は7:3くらいで、ロブスタ種は主にブレンドやインスタントコーヒーなどに使用されている。いわば日陰の存在ともいえるロブスタ種だが、こうやって店先に顔を出してくれるとは嬉しいことだ。ロブスタ種の品質改良が進んでいることもあるが、世間一般的にも珈琲に関する知識が浸透してきたことを示唆しているのかもしれない。

実際、視点を変えればロブスタ種が活躍できる場所はかなりある。ブレンドする割合が10%も超えると、あー、これロブスタだなぁ……と分かってしまうような個性の強い豆だが、その強い苦みを活かしてアイスコーヒーにしてみたり、甘いクリームやケーキと合わせたりしても美味しい。そしてエスプレッソにブレンドするとクレマの立ちが良くなるらしい……実験は大成功だ。

お酒もいいが、やっぱり僕には珈琲だな。

今年も飲むよ!

ショコラの結婚式 ~GRAND PLACE汐留~

こんばんは。今日はなんと二本立て。最近ハマっているお店を記録しておこう。

歩くだけでワクワクするお洒落な通り、汐留イタリア街。なんでもイケメンがわさわさ出てくるドラマの撮影に使われたとかで、僕も年頃の少女だったらきっとときめきが止まらなかっただろうなぁ……なんて場所がある。

 まあ「街」と云いながらも、イタリアっぽいのは実際には一区画だけで、用事が無ければあっという間に通り過ぎるしかない。ただ、ここには「三井ガーデンホテル汐留イタリア街」というビジネスホテルがあって、以前そこに泊まる機会を得たので、僕にとっては思い出深い場所だ。そのホテルにはドリップ式のコーヒーメーカーではなくカプセル式のエスプレッソマシンが備え付けてあり、個人的には非常に気に入っている。スマートフォンをちらちらスワイプしていると、その日泊まった部屋の写真が出てきたので、当時のはしゃぎようが伺える。

 

 とろーり。ええやん!

さておき、エスプレッソがあるとすれば、それに合わせるお菓子も欲しくなるのが道理だろう。すでにちゃっかりおいしいメロンショートが写り込んでいるが、それはまた別のお話として、イタリア街には素敵なショコラティエがあるので今日はそちらを紹介したい。

~GRAND PLACE 汐留~

おお……見事にお洒落な建物に溶け込んでいる。 近づいて見てみても、……お洒落なことはよく解るが、まるでフローリストか、ブライダルショップのようなガーリーな雰囲気だ。窓から見える煌びやかな内装は、吸血鬼が教会に立ち入れないような斥力で僕を阻んでくる。だが看板にFINE BELGIANE CHOCOLATEとの言葉を見つければ、もう入るしかないだろ、これは。

後々知ったが、グランプラスは「ベルギー生まれの日本育ち あなたのまいにちにショコラをプラス」という愛おしい理念を持ったチョコレートメーカーで、1991に設立されたそう。日本人にチョコレートのすばらしさを伝える伝道師だ。

店内には、伝統的なトリュフやオランジェットをはじめ、弓削島藻塩など日本の素材と組み合わせたクーベルチュールや、ペカンナッツを使った独自商品が目白押し。フードペアリングについて、マリアージュという表現があるが、ここでは、どれを頂いても大正解だろう。結婚式場のような美しい内装の店内と相まって、ここのショコラたちは、幸せの絶頂にいる気がする。カフェスペースもあるので、僕も祝福の一杯を頂くことにした。

クリスマスが近づき、店先にはスノーマンも出ているということで、そんな雰囲気のシャンパンショコラータを頂いてみた。

 金箔のパウダーがいっそう贅沢なひとときを彩ってくれる。思いがけず、ペカンナッツのショコラがサービスされたので、それもポイント高し。

ごくりと一口呑めば、あぁ……ととろける。

チョコレート感・アルコール感はさほど強くなく、フォームドミルクを中心にしたシルキーで優しい味わい。とても温かくて冬にぴったりなのだが、後味にシャンパンの香りが来て、そよ風がさらうように、舌がさっぱりする。デザート感覚で単品注文してしまったが、これを飲みながら甘みの強いチョコレートを頂くのも良かったかもしれない。

シャンパンショコラータは期間限定だそうだが、末永くお付き合いしたいものだ……。

今度はコーヒーを飲みに来ようっと。

 

 

 

 

呑み過ぎるバール ~caffè sospeso~

チャオ。

突然ですが、「カフェ・ソスペーゾ」という言葉をご存知ですか。

これはナポリのイタリアンバールの風習で、懐の温かい人が、2杯分のカッフェ(エスプレッソ)の代金を支払い、その後やって来た人がタダでカッフェにありつけるというもの。見知らぬ誰かをさらりと幸せにする小粋な文化である。

およそ10世紀から続くと云われている珈琲の歴史の中でエスプレッソマシンが登場したのは19世紀なので、イタリアンバルやエスプレッソの歴史はまだまだ浅い。とはいうものの、イタリア人にとって今やカッフェは生活に欠かせない存在。そして僕にとっても珈琲はかけがえのない人生の一部だ。そんな日常の中に、人とのつながりがあり、しかしそれは決して押しつけがましさや気まずさはない、なんてことになれば、なんて素晴らしいことだろう。

(ああ、もしかしたら僕の前世はイタリア人だったのかもしれないな……でもロンドンパブに行ったら行ったで、前世はイギリス人だった気もする、そんないい加減な僕は、やはり日本人だ)

さておき、最近この言葉を立て続けに耳(目)にすることがあった。NHKで放送中の「旅するイタリア語 第2課 ~ナポリの下町を散策~」と、むろなが供未・花形怜著「バリスタ」((4)episode.34 カッフェの恩恵)である。面白い情報というものは、興味を持ち続けているとおのずと飛び込んでくるものだ。

というわけで、さらにカフェ・ソスペーゾについていろいろと調べてみたりしていたところ、なんと、そんな名前のカフェが日本にあることを知った。

~caffe sospeso~

これがなかなかどうして、本格的なイタリアンバールのようだ。

場所は新橋…から少し歩いたところ。新橋といえばサラリーマンの街で、今もその認識に誤りはないが、チェーン店や安居酒屋のひしめく駅前を抜けて少し歩けば虎ノ門ヒルズや汐留イタリア街などといったこじゃれた世界が広がっている。カフェ・ソスペーゾは第一京浜道路を南下し、まさにイタリア街の入り口あたりにある。

闇に浮かび上がる看板のイラスト(ポルターホルダーとデミタス)からはいかにもいい香りがしてきそうだ。ああ、念願のカフェ・ソスペーゾである。実はこの記事を書く前に泣く泣くこの看板の前を通り過ぎたことがある。というのも、こちらのお店は土日祝と14:30~17:30の時間帯がお休みなので、注意が必要なのだ。新橋のサラリーマンでない僕は有給休暇を使って本気も本気でカッフェを呑みにやって来たのだった。この時”だけ”は新橋のサラリーマンが羨ましい。ワインや食事も充実していて、仕事帰りにスーツでアペリティーヴォなんか洒落込めたらそれはもう最高だろうなと。ちょうど僕と同じタイミングで入店した女性がいたが、ワインを傾けながら待ち合わせのようだった。クールですな……。

こちらが念願のカッフェ。

最近は浅炒り豆を使用したオセアニアンスタイルが流行っているが、ここでは昔ながらのイタリアンエスプレッソ。ツンとした感じの無い、まろやかな口当たりだ。日本では珍しいレバー式のマシンで淹れてくれて、価格も本場らしく200円。砂糖を入れても美味しいと思われるが、砂糖が無くてもいけちゃう。僕はお供にホワイトヌガー(180円)頂いた。素晴らしいの一言だ。くー、この一瞬の為に生きてるわ。

だが、当然もっと呑みたい。

続いてカフェ・コレットを頂いた。リキュールにはグラッパか、グランマルニエを選ぶことができるとのことだが、今回はグラッパにした。

「ちょっと入れ過ぎじゃないか!?」

と思うほど、なみなみと注いでくれて、一気にほろ酔いである。

日本に輸入されるグラッパは年々品質があがり、もはやマールといっても差支えない気品のある香りだ。エスプレッソの力強い香りと混ざって、極上のひととき……だが、かなり安い。エスプレッソファンでなくとも、これを呑みまくりに来てもいいんじゃないかと僕は思いますが、いかがでしょうか。ちなみに、飲み終えてから写真を撮らなかったことに気づいた。

もう止まらない。

三杯目はカップチーノ。見事なラテアート。カップのふちの丸みと、やさしい味わいが一人騒ぎ出したい気分を落ち着けてくれる。口の中で変化していくラッテの甘みを感じながら、ゆっくりと店内を見渡すと、壁に掛かれた文字やイラストがね、もうね、なんかいいな……とね。バリスタの似顔絵がよく似ている。いろんな人に愛されているお店なのだろう。

ごちそうさまでした。

次の有給休暇も、イタリアに行こう。

背筋を伸ばして ~上島珈琲店No.11~

こんばんは。

あっという間にお久しぶりです。

今夜はなんとなく、先日(2017/11/11)訪れたお店を紹介しよう…。

11/11といえば、そう、ポッキーの日ですね。皆さん、今年のポッキーの日はどんな日を過ごしましたか。かわいいあの子とポッキーゲームした人もそうでない人も、なんとなくそわそわする、あるいは背筋が伸びそうな、そんな一日だったのではないでしょうか。

その日、僕はコーヒーの勉強をするために新橋にある「UCCコーヒーアカデミー」というところに通っていました。僕は小さな個人店が大好きだが、大手がバリバリやっている熱いお店も大好きだし、つまり、誰も知らない仙人の生き様を眺めるのも大好きだが、きちんと体系的に勉強をして、競い合う中で過ごすのも好きだ。コーヒーアカデミーでは本当に貴重でいい時間を過ごせて、何より一日に何杯何杯何杯もコーヒーが飲める(というか飲まないとやってられない)ので珈琲好きは天国(珈琲が苦手な人はおそらく地獄)……だったのだが、まあ、そんなお話も機会があればいずれ。

今夜紹介したいお店は、そのコーヒーアカデミーのお隣。

「上島珈琲店No.11」

上島珈琲店は、「日本独自の喫茶文化や空間を大切にした大人のための本格珈琲店」として2003年にスタート。そして今年の10/1(コーヒーの日)にその新コンセプトショップ「No.11」がオープンした。

ふむふむ? 新コンセプトとは…? 興味が湧かないはずがない。通常の上島珈琲店も落ち着いた雰囲気で素敵だが、ここは一味違うようだ。

近づいてみればよく解る。これまでの上島珈琲店が、いわゆるアクティブシニアをターゲットにした味や内装であるのに対し、こちらは少し若い人向けという感じがする。モダンでシンプルな内装は、コーヒーラウンジと冠するだけあって、まるでホテルや空港のラウンジのような雰囲気。だが、大人…というよりもオトナとでもいうべきか、少しばかり遊び心のあるオトナが、ノートブックを片手に、適度な緊張感の中でリラックスするような感じだ。

メニューは、ネルドリップにこだわった珈琲が目を惹くが、特にシングルオリジンが頂けるのが嬉しい。サードウェーブコーヒーなる言葉が囁かれ始めて久しいが、最近本当に、「素材本来の味」が見直され、追求されている。

夕陽のような温かい間接照明に浮かび上がる抽出器具や、バリスタの立つカウンターが、「ああ、俺は珈琲を味わうぞ……」という気持ちを、すぅーっと高めてくれる。アカデミーで一日中コーヒーを飲み続け、胃は限界に近かったはずなのに、それでも一服したくなる。珈琲好きの哀しき性か。何より、この日は奇しくも11/11。それにつけて、No.11。この店に来るには最高の日和だった。

注文はコロンビア・サンアグスティンと、ほうじ茶のフィナンシェにしてみた。

珈琲は紙のカップで提供される。見た目にはちょっとだけ味気ない気持ちもするが、そこはラウンジ。ノートパソコンなんぞ隣に置けば、そんなアーバンな雰囲気もいかにも絵になる。なにより「器よりも何よりも、とにかく味で勝負です」とでもいいたげな、エッジの利いた態度は、嫌いではない。ましてや、液面に浮かぶつやつやの泡をみれば、超一流の豆が丁寧にドリップされたことがよく解る。

 ずずーっ……。

ああーうんまい……。

コロンビアの軽やかかつスモーキーな苦みが五臓六腑にしみ込む。

そして隣で待ち受けるほうじ茶のフィナンシェ。小ぶりながらもほうじ茶の風味と粉砂糖の甘みがしっかり活きておいしい。この組み合わせは大正解だ。

飲み終えてから、なんとなく、わびさびという言葉を思い出した。

紛れもない都会の真ん中、英語すら飛び交う、こんな新しい空間で、ひとり、わびさびする。日本人の珈琲、ここにありというものを見せていただいた気がした。

ちなみに。

店を出て歩くと、そこには東京タワーがそびえている。これもある意味、日本の原風景である。

さて、明日も背筋を伸ばして生きていこう。

 

ポテトサラダは焼くと旨い ~LONDON PUB RAILWAY TAVERN~

やあ。

今夜は神奈川県藤沢市にある、ちょっと穴場なお店をご紹介したい。

藤沢は、湘南と呼ばれる地区では最大の人口を誇るらしく、JR東海道線、小田急江ノ島線、江ノ島電鉄が乗り入れるちょっといい感じの街だ。古都鎌倉や鵠沼海岸といった観光地への玄関になっている。これらの街へ出かければ、それはまたそれで楽しいこと尽くしなのだが、今回はあえて藤沢。そんなところがちょっと通っぽくて良くないか?

しかし穴場といっても、その店はかなり目立つところにある。なんと藤沢駅の構内だ。改札を出て右手、徒歩30秒もかからずに着く。

~LONDON PUB RAILWAY TAVERN~

そのお店は株式会社日本レストランエンタプライズが経営するチェーン店で、慌ただしい駅中にあるチェーン店というだけで素通りしてしまう人も多いかもしれない。しかしこれが、灯台元暗しというやつ。照明に浮き上がるオレンジの看板に水色とグリーンの中間のような色の文字で大きく「CAFE/BAR LONDON PUB」、コーヒーカラーの入り口もなかなかお洒落だ。通行人が多かったので店頭の写真はないが、食べログとかに載ってるので興味があったら検索して見てほしい。改めて写真を見てみると、やはり悪くない。

店頭のイーゼルの上を覗き込むと、コーヒーはもちろん、ホットドッグなどの軽食、樽生のヒューガルデンや英国王室御用達のバスペールエールなどのメニューが目を惹く。

「軽く一杯、行こうじゃないか。コーヒーでもビールでも」

そんな「男のカフェ」を絵に描いたような、小粋なラインナップである。

そしていざ視線を上げると、小さなカウンターは、なるほど、お客さんでいっぱいだ。勇気をもって、群衆の中に飛び込んれみれば、そこは「修学旅行生のやってくる大きな神社のある町」でも「サーファーたちが集う海」でもなく、何処かの都市……例えばそう、まさにロンドンの街角だ。

カウンターの中では「ザ・兄ちゃん」という感じの若い店員さんが切り盛り。ほろ酔いの常連さんを「マジっすか」「ヤバイっすね」と朗らかにあしらいながら、サーバーからビールを注ぎ、新参者にもすぐにオーダーを伺う一連の所作は、一つのプロフェッショナル。カウンターからはビールサーバーをはじめ、コーヒーマシーンも、山積みのパン、冷蔵庫もオーブンもシンクも丸見えなので、もはやライヴクッキング状態。これってわりと贅沢なことなんじゃないかと思いながら、ぼーっと所作を見つめては脱帽である。まるでキッチンの中にいるような親密感も湧いてくる。料金は前払い制で、注文の度にコインを支払う。

おつまみは、ソーセージ、チーズ、ナッツ、セロリなどの小鉢で、どれも100~200円。ビールはハーフパイントで注文することもできるので、本当の本当にに「ちょい呑みたい」という人にはうれしい。おつまみも軽食も基本的には見た目そのままの味だが、それがまたいい。

 ふかふかのチーズドッグは、モーニングにも夜食にもぴったりだ。

しかし、なんといってもお勧めはポテトサラダを使ったメニュー。

これだけは、頭一つ飛び抜けて旨い。

「ポテトサラダは、焼くと旨い」

知っているつもりでも、この言葉の本当の意味を知る者はどれだけいるだろうか。アンチョビソースか、チリソースをかけたポテトサラダをオーブンで焼いたグラタン風の料理で、これもなんと200円ぽっきり。コテコテのチーズグラタンほど重くなく、じゃがバターという感じで、そこにアンチョビとチリの塩気・酸味がほどよく聞いている。寒い、風か雨か雪の日に訪れて、熱々のこれをちびちびいただくなんて、至福といわずに何だろうか。

苦み走ったヒューガルデンを合わせれば、気さくな日常の風景に。

そしてロートレックのラベルがおしゃれなワイン「Jenard Cabernet Sauvignon」を合わせれば、ささやかながらも特別な一日が飾れる。

……呑み過ぎ注意。

ここは軽~く呑んでかっこよく立ち去るべき、粋なお店なのだ。

ナポナポしようぜ ~伯爵邸~

こんばんは。

突然ですが、あなたは大宮について何か知っていますか?

恥ずかしながら、僕は先日まで何も知りませんでした。東北と信越の分岐点であり、埼玉県最大のターミナルである大宮駅は、新幹線で通過こそするものの、そこで立ち止まることはほとんどなく、「サザコーヒー」のカステラを食べるために降りたきり……それにしたところで改札の中である。

東京から約30分。埼玉県。立派な都会。以上。

顔も知らないアパートの隣人のような、近くて遠い、そんな場所。そういう妙な関係の場所たちと、一度きりの人生でどれだけ仲良くなれるだろうか……。そんな僕だったが、昨日ついに、大宮に出かけてきた。

その貴重な動機を与えてくれたのが、最近駅のホームでポスターを見かける、JR東日本主催のイベント「ナポ×ナポスタンプラリー」だ

ああなるほど、上野東京ライン・湘南新宿ラインのカラーリングって、ナポリタンだな……など何気なくポスターを見ていると、どうも沸々と、無性にナポリタンが食べたくなってくる……。紙面いっぱい元気にうねるナポリタンのイラスト。おいしそうな写真。ケチャップが跳ねたら大変そうな白い服と、白い歯を見せてモデルが微笑む。かわいくナポナポってさ……輪切りのピーマンのイヤリングなんかしちゃってあざといし……だが……あれ、いい? いいぞ? ナ、ナポナポ~! ナポナポ~!

とまあ、これは完全にデザインの勝利である。

ところが肝心のスタンプラリーの内容を見てみると、謎が深まる。そして、これもむしろ妙な中毒性がある。横浜のニューグランドホテルと、大宮の伯爵邸の2か所の名物ナポリタンを紹介していのだが……

・スタンプラリーなのに、ポイントはその2か所だけ。

・ナポリタンを注文しなくても良い。

・スタンプを集めて、もらえる景品は「ランチョンマット」だけ。

微妙。

わざわざ出かけるにはあまりにも微妙過ぎる内容だ……。

一応インターネットでイベントの様子を調べてみると、僕と同じように「微妙」との声多し。そしてあまりにも情報が出てこない……。

ということで、これはあえて行くしかないと判断した。

僕は居住地の関係でニューグランドホテルのカフェはときどき行くし、そこのナポリタンは以前食べたことがある(ややお高いが、間違いなく抜群に旨い)ので、今回は伯爵邸が気になるところだ。

しかも伯爵邸のほうは、このスタンプラリー台紙を持っていくと特典が盛りだくさんで、珈琲がサービスされるうえに、「カゴメ 王道の味 ナポリタン」というパスタソースがお土産でもらえるとのこと。太っ腹である。

しかも、なんでもポスターによれば、大宮では鉄道マンが好んでナポリタンを食べたという歴史があり、地元野菜を使用したナポリタンを「大宮ナポリタン」という名物として謳っており、大宮ナポリタン会なる組織も発足しているとか……。実に愉しみである。

そんなわけで、降り立った。

駅前を歩くと、なんだ、これは……。

まずはとにかく、飲食店だらけ。しかもその内容が、

「北海道塩ザンギ 炎 大宮ルミネ店」、「新宿ゴールデン街発 すごい煮干しラーメン 凪 大宮店」、「とんこつラーメン博多風龍 大宮東口駅前店」…築地や三崎の魚に、宮崎の鳥……と、自分がどこにいるのか判らなくなりそうなカオスが押し寄せてくる。よく云えば、日本の美味しいものは何でもそろう! 悪く云えば節操のない……そんな感じだ。期待を不安をない交ぜにしながら数分歩くと、伯爵邸の看板が見えてきた。

ゴクリ。これもなかなかカオスではなかろうか。驚異の24時間営業というのも素晴らしい。深夜の伯爵邸にも興味が湧く……。

奇しくもこの日はハロウィン。伯爵邸を取り巻いて笑っているジャック・オー・ランタンの風船が、はまり過ぎていて、飲み込まれそうだ……

少し遅めの13:00過ぎに訪れたが、伯爵邸の店内は見事な満員。人気ぶりが伺える。内装はとにかくゴージャスで、ビーナスの彫刻や絵画、蛇が漬けられたお酒?の瓶などが置いてある。伯爵! これは紛れもなく伯爵の宴である。

メニューは、喫茶はもちろん、アルコールから、がっつりとした食事系まで豊富で、これもカオスだが、ここは何が何でも大宮ナポリタンを頂く。

お待ちかねのナポリタンはこちら。

とてつもないボリュームだ。昔懐かしいフレンチドレッシングのサラダと、コンソメスープもついてくる。二人掛けのテーブル席だと明らかに載り切らないので、食事をする人は広いテーブル席にかけるのが良いだろう。トレイはそれぞれのお皿の個所にくぼみがある特注のもので、このナポリタンのセットがいかに昔から存在するのかを示唆している。

僕が普段食べるランチの2~2.5倍くらいのボリュームがある……食べきれるだろうか……と一瞬心配になるが、食べ始めてみるとそれは杞憂だった。ばくばくいける。おいしい。

 ここのナポリタンは、パスタはちょっと柔らかめ。アルデンテ全盛のこのご時世に、なんとも興味深いナポリタンである。味も濃すぎず、上品でおいしい。具は結構変わっていて、ピーマン×ソーセージではなく、豚肉×イカ×ニラ×カイワレダイコン。食感も風味も独自のナポリタンだ。屋台の焼きそばのようなわくわく感がある。

トッピングにはお馴染みのタバスコ・粉チーズに加え、泡盛に青唐辛子を漬け込んだタバスコも供される。ナポリタンはとにかくたくさんあるので、普段はあまりトッピングを使わない人でも容赦なく遊び心を発揮できる。泡盛タバスコはお酒の香りがなかなかすごいが、このナポリタンにはマッチする。病みつきになる味だ。

食べてる途中で出てきてしまったが、食後の珈琲も十二分に美味しい。

酸味は抑えられ、”豆感”のある味。ブラジルだろうか。水も、そんじょそこらとはちょっと違うと思われる。口当たりがまろやかだ。最後にかけすぎたタバスコで痛めつけた舌を、やさしく癒してくれる。はぁ~食った。

この超絶ナポリタン体験は、セットで800円。もはや驚異というほかあるまい……。これにはきっと、どんな伯爵様もご満悦だろう。パフェなどの他のメニューも気になるが、それはまたの機会だ……。

 

ちなみに。

食後は氷川神社と大宮公園に寄ってきました。

いやー、いいところだったよ…。

 

 

 

 

山奥のカフェでサンマを食べたお話 ~Cafeころん・点景~

 

実に60年ぶりの寒さ!

超大型の台風21号と衆院選選挙が迫る2017年10月21日。日経平均株価の金曜日終値は21458円を付け、何かと嵐の予感の感じられる今日この頃。

天候にはとことん恵まれなかったが、どこかへ旅をしたい気分の高まりは抑えようもなく、僕はふらりと東京都青梅市にやってきた。

青梅は、訪れてみたかった場所のひとつ。自然あふれる奥多摩への玄関口であるが、単なる中間地点とするにはもったいない、旅情あふれるディスティネーションだ。駅を降りた瞬間に待ち受ける空気の違いは、まるで古い邦画の世界に来てしまったかのような錯覚を与える。

古くは綿織物と林業により宿場町として発展した青梅であるが、近年は産業が衰退、シャッター町の寂しさが忍び寄る。それを力強く支えているのが、日本最後の映画看板師・久保板観氏が手掛けたという映画看板だ。赤塚不二夫会館や昭和レトロ商品博物館など、昭和をテーマにした町おこしがされており、この街並みを目当てに訪れる旅人も少なくないのだとか。

僕の大好きな映画「The Third Man」の看板も見つけた。こんな看板だったのか。パロディの看板もあったが、見比べないとよほど詳しい人でなければ解らない気がする……。

 

 なんにせよ、昭和を懐かしむ時代すら過ぎ去り、僕のような懐古趣味でもない限り、未知の世界になりつつあろう青梅。しかしどことなく、大切にしたい、いい感じの町だ。

そんな青梅を訪れた今回の主目的はこちら。

「レンタルCafe ころん」

 こちらのお店はちょっと変わっていて、シフォンケーキ屋さんの「ちゃんちき堂」が維持経営するシェアスペース。一日単位で店舗をレンタルでき、志のある人なら誰でもここでお店を開くことができるという。クラウドファンディングで資金を獲得し、仲間たちと廃屋をリノベーションして作られたお店は、青梅を元気にしたいという久保田オーナーの想いがまさに結実した場所で、未来のカフェ・オーナーが集う、”ふるさと”なのだ。

この日は、ゆうみさんが経営する「点景」というお店が営業していた。干物を中心とした”きちんとした和食”を提供するお店だ。

今の世の中、コンビニやファミレスの食事は、なんでも衛生的でおいしいが、そんなディストピア感あふれる食事で毎日を過ごす現代人にとって、手作りの食事ほどうまいものはない。建物の雰囲気ともよく合っていて、いっそう美味しく感じる。時代がめぐって、こういうお店が増えればいいと思う。

僕が頂いたのはさんま定食。パリパリとした皮目がおいしい。今年はさんまが不漁だとかで、高級品になりつつあるが、頭が右を向いているから安く仕入れられたのだとか。お味噌汁や小鉢の内容も材料の在庫状況によってアレンジ。こういったその場その場の対応が人の妙味である。僕の場合、物語の中でしか知らないが、「仲の良い親戚のおうち」とはきっとこういう場所なのだろう。

食後は珈琲とシフォンケーキを頂いた。珈琲は国分寺の「ねじまき雲」さんから仕入れているらしい。深炒り豆を使用し、フレンチプレスで抽出することで、特有のコーヒーオイルが感じられるが、くどさはない。シフォンケーキは、ヤシの木の花の蜜を使っているという「ハニココ」を選んでみた。さっぱりとしたかすかな甘みが特徴的で、日々、人工甘味料に毒された舌がリセットされるような味だ。いろいろと発見の多い食事になった。

昭和も平成も、時代は必ず寂れていくが、それは同時に、新しいことが芽吹く土壌でもある。違うお店が営業しているときも、何度も足を運んでみたい。雨の向こうに広がる青梅の町を眺めながら、この小さな場所の大きさを、ぼんやりと計りかねていた。

 

 

 

ノラネコみたいな京都探訪 ~さらさ西陣~

 

そうだ、京都、行こう。

……なんてね。嘘です。今夜も思い出のお話。

関東・東北・北陸と来たので、今夜は西へ行ってみましょうか。全国のカフェを季節も年代もランダムに、まんべんなく紹介していきたい。

京都も僕の大好きな都市のひとつ。最近は世界的観光地の地位を揺るぎないものにしているが、神社や仏閣など歴史の重みを置いといても、なお魅力余りある文化の街だ。カフェ好きにとっても一度は行ってみたい名店がそろい踏みで、京都旅行に行くと、楽しいは楽しいけれど、張り切り過ぎて疲れてしまうこともしばしばである。

そんな僕だが、何度か足を運ぶうちにこ慣れてきたのだろう、2015年の5月は、やけにまったりとした京都旅行をしてきた。日曜美術館で重森美鈴の枯山水について放送されたすぐ後に、ぶらりと美鈴の庭園を見に行くという、贅沢極まりない週末を過ごしたのであった。

 

枯山水を観るにあたって、あれも食べたいこれも食べたいと煩悩にまみれるのはいかがなものか、ということで、あえてほとんどプランを立てずに出かけた。そしてふと旅行の当日に、「そういえば西陣のほうって行ったことないなぁ……」などと思いつき、野良猫のようにぶらぶらとそちらに歩いて行った。

  豆腐屋さんでとてもおいしい油揚げを頂いたりしながら、古い町並みを歩き続け、たどり着いてしまったのがここ。

「さらさ西陣」

 築80年の銭湯「藤の森温泉」をリノベーションして作られたおしゃれなカフェだ……。 人々の生活の中で風合いを増した壁のタイルや天井が美しい。

残念ながら温泉そのものに入ることはできないが、温泉に入ったかのように骨の芯までリラックスできるレトロな空間である。BGMとして、「いい湯だな」をジャズアレンジした曲がかかっていて、これも最高だった。(後に、PE’Zの「故郷のジャズ」というCDに収録されている曲だと知り、ヴィレッジヴァンガードで購入して自宅で聴いている)

この日頂いたのは、お腹いっぱいになる冷しゃぶプレート。豊富なやさいがうれしい。ごはんに突き刺さっているのはさくっと軽い食感のあげせんべいで、この塩気がまたいい感じだ。こういう、遊び心が、いかにもカフェごはんっぽい。飲み物は、お風呂上りっぽく、オレンジジュースにしてみた。今度はコーヒーを飲みに行きたい……!

 なんだかまるっきり旅行ブログみたいになってしまったが……単なるカフェの紹介だったら、ガイドブックにでも書かせておけばいい。カフェってうのは、出会いなんだよ、と。僕がしみじみ云いたいのはそういうことです。

古くて新しい。そんな京都の一角。あなたもぶらりと訪れてみては。